まだ、白いヒヤシンスは芽を出していなかった。

まだ、日陰や道端に雪は残っている。

山の公園に植樹した「ペペの樹」白いコブシも芽を出していない。

ぺぺの樹の真後ろに白い富士山が見える。

山の夕暮れは早い、冷気が流れ始め黒い夜が来る。

依頼された絵を描くために来たが、

なかなか描く気力が出ない。

芽が出ているかと楽しみにしていた

白いヒヤシンスも、

まだ枯れ葉に覆われ眠っている。

１３年前、ここに住み始めた頃、

栗の木の下に植えたヒヤシンスの球根。

雪が解けて春が来ると、

枯れ草の間から小さな緑色の芽を出し

白い花を咲かせて私を喜ばせてくれた。

辺りを覆う樹々や漂う山の空気が、

ここで暮らしていた日々を思い出させ

私の心を感傷的にする・・・