2011/12/21

ピーコートとダッフルコート


例えば、メンズショップで男性客を女店員が応対することに、
誰も疑問を感じない変な日本を知る為に、敢えて転載する。

ピーコートとダッフルコートについて、
ネット上での若者の質問に、ニューヨークで活躍する
メンズウエア・デザイナーが答えている。

回答者のスノビズムが多少気にはなるが、
若い方々に、紳士服の原点を知る参考になればと願う。
また、日本社会では問題視されそうな箇所もあるが、
未だ歴然と「階級」が存続する欧米社会を知る為に、
また、紳士服に厳然と存在する「鉄則」を知る為に、
あえて長い原文をそのまま転載した。


以下は「教えて!Goo」からの転載です。

◉ 若者の質問:
今年アウターを買うのにPコートを考えています。普段着たいのですが、
これから就職活動もあるので、「Pコートってスーツに合うのか?」
と思い、質問させてもらいます。

◉ ベストアンサー:
私は ニューヨークにてメンズウエアの仕事をしているものです。
質問のタイトルを見てちょっと気になったので、
なるべく手短に回答をしようと思います。 

まず、ピーは、Pではなくオランダ語のピエッケル(以降とりあえず、あえて全てカタカナで書きます。)に語源があります。ピーとは、粗悪なウールの繊維をスチームなどを使って縮絨(繊維を縮めて丈夫にする。雨風などを通しにくくする効果がある。)加工したウール織物を意味し、エッケルの部分は英語で言うジャケットを意味します。大量生産しなければならない防寒用のミリタリーコートにいいウールなど使えるはずもなく、再生ウールと呼ばれるくずのウールを固めて作った繊維で出来た生地を使っているので、今でもアメリカのショット社などの輸入ものであっても値段が安いのです。
かつての英国もそうでしたが、オランダもご存知の通り、英国に先駆けての一大海洋国家であり、世界に植民地(東洋ではインドネシアなど)を持っていましたので、海軍こそ国の運命を左右する、もっとも大切なものでした。 
以上のことからもお察しいただけるかと思いますが、ピーコートそれ自体は、基本的に欧米の海軍の”下っ端”が冬の甲板で作業をするために作られ、広まったコートです。例えば、船上での活動の妨げにならないようにするため、丈はお尻が隠れる長さとし(厳寒の中でお尻を冷やすと疲れやすくなるのです)また風向きが変わることによる雨風の進入を防ぐため、フロントは完全な両前仕立てとなっています。襟がやたら大きいのも、波風の音がうるさい中でも襟を立てることによって、人の声、笛の音などを逃がさずに聞こえやすくする効果があります。以上のようなことに加え、アメリカでは冬場の囚人の外での作業着として海軍のお古のピーコートを支給してきたので、一般的なイメージはあまり良いとは言えないのです。これについては、クリントイーストウッドの映画”アルカトラスからの脱出”を見てみてください。


結論的なことを言えば、ピーコートは、欧米においては、基本的に下層階級(東欧、南米、アジアなどの発展途上国からの移民を含む)の着るものであって、下層中流階級以上の人はあまり着ることはない代物です。スーツを日常レベルで身につける必要があるのは、下層中流階級以上の人たちですから、そういう人たちは、取りあえずスーツと同じレベルで仕立てられたウール、またはカシミア素材のオーバーコートを着るのです。当然雨であれば レインコートになります。つまりピーコートをスーツの上に着ることは、日本的に言うならば、侍の裃の上から農民の着る蓑を着ることにも等しく、中流階級以上の欧米人には、このコーディネートを発想すること自体ほとんど考えられないことです。誤解をしないでいただきたいのは、私はスーツにピーコートをどうしても合わせるなと言っているのではなく、日本にいるのだから、自由に洋服を楽しむのもいいのでしょうが、それも物事の本質をきちんと知った上でこそ、と言いたいのです。 

こうしたことを何も知らずにただ自分の感覚だけで、洋服を着ているといつまでたっても洋服の魂は見えてはきません。スピルバーグがからんだ、日本のある芸者さんの人生をモチーフにした映画”SAYURI”の着物姿がおかしい云々と話題になりましたが、欧米人から見れば日本人の洋服姿も同じようなもので、結局お互い様なのです。お互いがお互いの歴史文化を理解していないから こんなことになるわけです。 

西洋の男の服は、カレッジとミリタリーがベースとなっているものしかなく、歴史的教養、マナーや品性に磨きをかけるのは大事なことです。日本でも中学校くらいから正しい洋服の着方を授業で教えたらいいと思うのですが、そういえば そうした授業の出来る先生がいませんね。 


さてさて、日本ではピーコートと並んで若い人に人気のダッフルコートですが、実は これは逆に欧米の上流階級に人気のあるコートなのです。ダッフルとは、ベルギーのアントワープ近郊にある漁業の町です。元々ダッフルコートの木のトッグルは、船のオールなどの木材を削って作ったもので、麻ひもは、猟師の網に使われていたものを使って作った、つまりヨーロッパの厳しい冬に海に出て仕事をする猟師たちによって創られ、着られていたものなのです。このダッフルコートが なぜか20世紀の英国海軍の目に留まり、お偉いサンたちの着るコートとなっていったのです。お偉いさん、つまり指揮官、司令官のユニフォームとなったことが その後のダッフルコートの運命を決定つけたと言えるかもしれません。 

第二次大戦後、より高級素材が使われるようになり、トッグルも木と麻ひものコンビネーションから、角と皮のコンビネーションに変化してきました。古い映画ではありますが、”第三の男”という映画でトレバーハワードという英国の俳優が 役柄上、イギリス軍の将校役として、ダッフルにベレー帽姿で登場していました。また第二次大戦のイギリス軍の司令官で北アフリカでロンメルを破ったモンゴメリー将軍もダッフルコートを愛用していました。こんなようなイメージが重なりに重なって会社の社長さんだった人などが、リタイアしてから休日に着るようなコートとなっていったのです。 


個人的には、ブレザーやツイードジャケットの上に羽織るのはいいと思いますが、ビジネススーツの上にはダッフルコートもピーコート同様あまりお薦めしません。何事もそれぞれのアイテムの本質を知った上で 服の組み合わせを考えることが大切ではないでしょうか。
ピーコートについては例外として、海軍大臣をも務めたウインストン チャーチルが 前線の兵士を鼓舞するため、ワザとスーツの上にピーコートを着ていったことがありましたが、チャーチルらしい上手な演出であったと思います。もうひとつ、ピーコートがお好きでしたら作家アーネスト へミングウエイの着こなしも参考とされたし。 もちろん船の上でのピーコートらしいスポーティな着こなしですが。



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2 comments:

S.K said...

keiji様 
ピーコートとダッフルコートの由来は大変勉強になりました。回答者の方が仰るように日本にも教養としての服装術に触れる機会があれば良いと思います。
keiji様のHPにも度々登場するケーリー・グラントは本当にカッコイイですね。映画「北北西に進路を取れ」を中学生の時にTVで観て、なんてスーツが似合う人なんだ!と
一目で憧れました。
これからも僕のような物を知らない若輩の為にも蒙活動をよろしくお願い致します。

K.Keiji said...

S.K.さん、励みになるコメント有り難うございます。

今では大衆化し古くさいイメージになってしまいましたが、
NYのブルックスブラザーズにピーコートはありませんね。

ダッフルコートと言えば英国のグローバーオールでしょうが、
僕は、邪魔なフードや装飾過多で重いダッフルコートより、
シンプルなピーコートが好きでカジュアル時に愛用しています。
1%のリッチな階層では無く、
99%の大衆に属しているからでしょうか・・・ハハハ

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