2011/10/03

消滅の美学「ファセル・ベガ」。


完全整備を施し終わった先輩のファセル・ベガ(リンク)。
あまりにもソレを僕が見たがったので、
わざわざ冨士山麓までお茶の時間に乗って来て下さった。

ファセル・ベガが消滅する直前の1963年製ファセルⅢ。
1963年に、僅か402台生産された一台である。
何と美しいリアクォーターの直線的な造形!
8個のメーターが埋込まれたクルミ材のダッシュパネル!
コストを無視したアルミ製ボディを優雅に飾る
ステンレス製のバンパーやモールが鏡の様に光る!
乾いた排気音を響かせながら走る姿は、
気位高く一瞬の輝きを放って散っていく徒花の様だ。
僕は感動のあまり良い写真が写せなかった・・・

ブガッティ、ドラージュ、ドライエ、イスパノスイザなど、
かってフランスは高級高性能車で世界を圧巻していた。
しかし第2次世界大戦後のフランスの荒廃と、
大型車に課せられた重税が原因でソレらは次々と姿を消し、
大衆向けの経済的な小型車に移行してしまった。
そんな大勢に逆らい高級車をデビューさせたメーカー、
それがジャン・ダニノスが設立したファセル・ベガである。

1954年パリモーターショーで産声を上げたファセル・ベガは、
画家ピカソや哲学者サルトル、女優エヴァ・ガードナー、
また、F-1ドライバーのスターリング・モスらに愛されながら、
僅か10年後の1964年、短くも美しい生涯を閉じた。

エットレ・ブガッティの美意識が四角いエンジンの造形に拘り、
それ故に時代と遊離し消滅して行った様に、
ジャン・ダニノスのファセル・ベガもまた彼の美意識ゆえに、
社会の大勢に刃向かい消滅して行ったのだ・・・

ファセル・ベガ、それは正しく「消滅の美学」。
経済性や利便性にのみ価値を見出し追求する現代人には、
絶対に理解し得ない美学が宿り僕を魅了する。

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